インポーター注目のマルヌ＆南部「知られざる偉大なテロワール」

ジャクソン、エグリ・ウーリエなどの名だたるシャンパーニュメゾンのインポーターである株式会社ヴァンパッシオン。代表取締役である川上大介氏が今注目する、まだ知られていないシャンパーニュ産地の偉大なテロワールをご紹介します。

シャンパーニュの止まらない高騰

ブルゴーニュやボルドーに続き、昨今シャンパーニュも高騰が止まりません。
サロンは100万円のセット販売になり、クリュッグは90年代前半に12,000～13,000円程だったのが、今では25,000円を超えています。
この背景には、BIOへの切替えで大量生産しなくなったことや、毎年どこかで起こる温暖化の影響による被害などもありますが、一番の原因は土地の値段の高騰とされています。

ブルゴーニュを例にとってみると、90年代前半には特級畑1haあたり平均7,000万円だったのが、今では1haあたり約7～70億。これはボルドーも然りで、造っているワインの本数は変わらずとも、土地の価格高騰のために、ワインの販売価格を上げざるを得ない状況が生まれます。

新興ワイン消費国のひとつである中国では、今までは赤ワインが主流でしたが、近年サロンやクリュッグ、クリスタル、ドンペリ二ヨンなどの需要が飛躍的に伸びているため、シャンパーニュの特級・一級畑の値段は高騰が続いています。高くなればなるほど買えるお客様の数が限られる、この厳しい現状を打破すべく、㈱ヴァンパッシオンが探し当てた5つの生産者を今回ご紹介します。

北部の＂マルヌ・テロワール＂

まずはシャンパーニュ北部について。
土壌はチョーク質で、柔らかいピュアな石灰岩が主です。表土が薄く、溶けやすいチョーク土壌が底土で、ミネラルが強い特徴を持っています。
北部のなかでも、モンターニュ・ド・ランスやコート・デ・ブランは、大多数の畑が既に格付けされているため、新たな発見が難しいエリアですが、ヴァレ・ド・ラ・マルヌは東西100㎞以上に及ぶ広大なエリアのため、秀逸なテロワールが隠れている可能性があります。

通常ヴァレ・ド・ラ・マルヌは、南北を山に挟まれたv字谷になっているため、日照が弱く、霜も降りやすいため、ブドウが熟しにくいとされていますが、アイやブジーのような格付けされた畑とほとんど変わらない条件を持つ畑がいくつかあります。これを名付けて『マルヌ・テロワール』。

【課題①】日照が弱い
→対岸の丘から距離があり、夏場は22時ごろまで日照を受ける村

【課題②】霜が降りやすい
→谷が大きく開けた村は、日当たり良好で霜が降りにくい

この課題を克服する特殊な畑を持つ生産者のひとつが、ドメーヌ・シャルリエ・エ・フィス
平均樹齢40年の古木をリュット・レゾネで栽培し、100％樽発酵・樽熟成で醸造しています。ムニエが多く使われ、樽由来の独特の香りを持ち、果実味が綺麗に出ています。ミネラル感たっぷりで、北部のシャンパーニュらしい味わいです。100%樽発酵、樽熟成ができるのは、完熟した強い上質なブドウを持っている証拠。
高品質志向のRM同士で結成された「クラブ・トレゾール・ド・シャンパーニュ」の老舗メンバーでもあります。

南部の＂セーヌ・テロワール＂

こうした秀逸なテロワールを持つ畑は、シャンパーニュの南部にもあります。
名付けて『セーヌ・テロワール』。
土壌は、石灰の礫と粘土が多いキンメリジャンで、ミネラル感が少ない特徴があります。南部のテロワールは、時に日照が強すぎるため、ブドウの甘みが出過ぎたり、土壌が肥沃すぎるためにミネラルや酸に欠け、余韻が短くなってしまう傾向があります。

【課題①】強すぎる日照
→真南以外の斜面を利用し、直射日光を避ける
→高地の畑を利用し、積算温度を下げる

【課題②】肥沃すぎる土壌
→急斜面の畑を利用することで表土が薄くなるため、肥沃でなくなる
→良い栽培をする生産者の畑は、根が地中深く伸びて、ミネラルを吸い上げる

この2つの課題を克服すると、南部らしい「温かみや果実の厚み」を持ちつつ、北部のような「ミネラル、酸、ストラクチャー」を持ったシャンパーニュが生まれます。課題を克服し、大量収獲や大手ドメーヌ向けの桶売りをメインとする生産者が多い南部エリアで、数少ない自然派農法を採用している生産者を、4つご紹介します。

まずは、ドメーヌ・ロワイエ・ペール・エ・フィス
ロワイエは印象派の巨匠ルノワールが20年近く住み、多くの絵を残したエッソワ村にあり、ルノワールが描いた柔らかな南の陽光のような、優しく、ロマンチックなシャンパーニュを造っています。所有畑の多くがなだらかな丘にある畑で、リュット・レゾネの自然な栽培法を採用。南のシャンパーニュらしい、果実味豊かで、柔らかいタイプ。余韻にストラクチャーとミネラルがあり、酸がきれいに残る、優しい味わいが特徴です。

続いて、ドメーヌ・マリー・デュメ
急斜面の畑を持ち、礫の多いミネラリーな土壌の畑を持っています。BIO栽培を学んだ娘婿がドメーヌに戻り、更に品質が向上し、年々洗練さを増しています。ミネラルを感じにくいとされているピノ・ノワールですが、急斜面の畑をうまく利用することで、南のシャンパーニュとは思えないほど輪郭とミネラルと酸のあるピノ・ノワール100%を生み出しています。
ヴィンザー卿やポール・マッカートニー等、一流を知り尽くした英国VIP御用達シャンパーニュでもあります。

一番契約が難航したドメーヌ・フュメイ＆マリー・タッサン
希少な村の伝統品種「ピノ・ブラン・ヴレ」を蘇らせた “ピノ・ブランの名手”です。腐敗しやすく、酸と糖のバランスが難しい品種のため、現在栽培しているドメーヌは数軒のみですが、タッサンでは樹齢60年超の古木のピノ・ブラン・ヴレの畑も所有しています。なだらかな丘に畑を持ち、BIOらしい、果実味の柔らかいタイプです。既に「HVE/高基準環境価値」認証最高のレベル3を取得していますが、独自のBIO栽培をさらに進化させつつ、2025年迄の完全なBIO栽培実現を目指しています。
上級キュヴェは、今注目のピノ・ブラン１００%。値段は少し高めですが、ツウ向けのキュヴェです。

最後は、ドメーヌ・モレル・ペール・エ・フィス
歴代フランス国王御用達ワインを生み出してきた「レ・リセイ村」。その中でも最高峰とされる「レ・リセイ・オー」の標高の高い斜面に畑を持ち、代々リセイ最高峰として崇められてきたモレル家。所有する8haの畑は、標高300mの高地に広がり、ほとんどが東～南東向き斜面の畑です。そのため、ふくらみのある優しい果実味に、さわやかな酸、ミネラリーな余韻が印象的で、王様が愛した特級アイ村を想わせる気品を呈したワインが生まれます。