幻と称されたヴィルマールのシャンパーニュ

樽発酵・樽熟成のこだわりから『レコルタンのクリュッグ』と賞賛されるドメーヌ・ヴィルマール。ランスの南東に位置するリリー・ラ・モンターニュ村より、現当主ローラン・シャンが来日。貴重なエピソードや各キュヴェの解説を伺う事が出来ました。

フランス国内の一流レストランにオンリストされ、特に上流階級の人々から圧倒的な支持を受けているヴィルマールのシャンパーニュ。「テロワールのワイン」という考えより醸し出されるシャンパーニュは、その生産量の少なさから”幻”と称された事も。

村全体が北向きで、畑のほとんどにおいて砂地が多い平野にあるため、鋭角な酸とやや青さを感じるような野性味を持つワインが生まれる一級格付けのリリー・ラ・モンターニュ村。では何故ヴィルマールは特別な存在感を放ち、絶賛され続けているのでしょうか？

ヴィルマールが別格の存在であり続ける理由とは

ヴィルマールが所有する畑は、リリー・ラ・モンターニュ村の中でも平地に突如現れる小高い丘の南〜東向き斜面に存在。ピノノワールは真南向き、シャルドネを東向き斜面に植えられています。またモンターニュ・ド・ランス北部では厚い表土に覆われた粘土質土壌が多いのに対し、ヴィルマールの畑は表土が浅く、チョーク土壌に覆われているのです。

特別な条件に恵まれたその自社畑は、ブージィやアンボネイといったグランクリュに匹敵するミクロクリマの恩恵を享受。また敢えて平地の北斜面のブドウから造られるワインをブレンドする事で、豊かな果実味とエレガントな酸を有する余韻の長いシャンパーニュを生み出しています。

当主が語る栽培・醸造の秘密

1890年創業のヴィルマールは「テロワールの敬意」という伝統を守っています。ローランの父である先代のルネ・シャンは、まだ有機栽培が一般的になる以前の1960年代からオーガニック栽培を開始。土を鋤起こし、除草剤や殺虫剤は使ってはいません。

また特徴的な点として語られたのが、極限まで制限した収量の低さです。60〜66hl/haという収量はブルゴーニュの特級並みの低さ。シャンパーニュ地方での収量は他の産地よりも多い事が一般的ですので、これは驚くべき数字です。

「小さな子供を扱うようにブドウに接する。」とローランの言葉の通り、醸造面でも徹底されています。現在でも伝統的なコカール（垂直式のプレス機）を使用。手作業の為、4000kgのブドウを搾り終わるまでなんと4時間もかかります。更に重力による自然なデブルバージュ（澱引き）で、高品質を保った状態のマストが得られるのです。

ヴィルマール最大のアドバンテージ

マロラクティック発酵を行わず、木樽のみで発酵・熟成を行う事。同様にマロラクティック発酵無し、木樽のみで発酵を行う唯一のグラン・メゾンがクリュッグです。

木樽による発酵・熟成過程で僅かに空気と触れる為に、そこに複雑さが生じ、ワインに長熟力を与えます。マロラクティック発酵をしないヴィルマールでは、長い瓶熟をする事で、ワインが持つ溌剌とした酸の自然な変化を活かしています。

長期熟成により味わいは深遠さを極めながらも、ブドウ本来の純度と新鮮さを失うことはありません。”究極のテロワール・シャンパーニュ”を生み出す稀有なドメーヌとしてヴィルマールは別格であり続けているのです。